『乳と蜜の流るゝ郷』がJAを知る好著と評判

 9月復刻されたばかりの賀川豊彦著『乳と蜜の流るゝ郷』(家の光協会)が農協(JA)関係者の間で注目されている。特に小説の舞台となった福島県のJAでは「協同組合の本来のあり方を易しく教えてくれる格好の教材」との評価が高まり、総代会で組合員に配布する考えが浮上しているそうだ。
 JA関係者によると「最近ではJAが何のためにあるのか教える人もいない。暮らしと営農のためにあるのに経営ばかりが叫ばれて本末転倒している」という。

 賀川豊彦全集の編集を担当したキリスト新聞社の武藤富男氏は『乳と蜜の流るゝ郷』について、次のように書いている。

 この書は昭和10年11月6日、東京の改造社から発行された。この年2月から7月まで、賀川はオーストラリアに講演旅行をなし、12月には中山昌樹とともに、アメリカ・キリスト教連盟及びアメリカ政府の要請により渡米し、主として協同組合運動について指導したのであった。本書は「家の光」に昭和9年1月号から同10年12月号に至るまで24回に亙って連載されたものをまとめたものである。協同組合運動と立体農業とを鼓吹することにおいて、本書は『幻の兵車』以上の迫力を持っており、筋の運びも変幻自在で、賀川の想像力がもっとも自由奔放に駆けまわり、目まぐるしいばかりである。47歳の時において、賀川のロマンティシズムはその絶頂に達したといいうるであろう。

 小説のあらすじを読みたい方はここ。

 福島県会津の寒村に育った青年田中東助は、繭の安値と旱魃のために、一家の生活の立たないのを見て、信州上田に養子に行っている兄彦吉を頼って行く。汽車賃がないので何日もかかって歩いて行くが、山小屋に泊めてもらって、仙人から木の実の食べ方、その効用を聞かされる。

 上田の彦吉の家は魚屋兼料亭であり、東助はここで働くことになったが、出入りする春駒という芸者に惚れられる。春駒をかかえている芸妓屋、鶴屋の女将おたけは春駒を養女にして東助をめあわせて後をゆずりたいというが、東助は福島県の村を救いたいからと云って応じない。彼は兄の店のため魚の行商をしながら、浦里村の信用販売利用購買組合に出入りするようになり、農村経営の仕方を学ぶ。東助はこの組合に鮮魚部を設けて、そこに雇われて働くこととなった。

 彦吉は東助を鶴屋の養子にしようとしてすすめるが、東助がきかないので彼に乱暴する。東助は春駒にとりなされて鶴屋に連れて行かれ、女将に会う。女将は東助の話を聞き、産業組合運動に賛成し、そのため自家の身代を全部投げ出そうと申し出る。東助は夜おそく鶴屋を辞し、浦里村に向かうが、途中で春駒が悪人たちに誘拐され、東助は警察に留置される。(続きはここ