少年平和読本(22)あとがき

 戦争が放棄され、軍備が全く撤廃されて、いささか不安をだいているやに見える、日本人、特にこれから成長して、新生日本、平和日本をせおって立つ少年少女の頭に、生存競争のみが、真の生命の進化を促すものではなく、むしろ反対に、武装を放棄したものが永く栄えて行くという事実を、動物の進化の歴史に徴して教える必要がある。
 こういう考えを持って、わたしたちは、自分たちの経営する神奈川県茅ケ崎海岸の平和学園で、小、中学および高等学校生徒の前に、幾度かそうした生物界の真相を語り、また自分たちの国際平和協会から発行する雑誌「世界国家」に少年向き読み物として他の平和問題に関する記述と一しょに二カ年にわたってこれを連載したのであった。
 近ごろ、平和問題に関する日本人の感心が漸く高まって、世界平和に関する多くの著作や記事が散見するようになったことは、喜ばしい傾向である。ところがその大部分、というよりは、その全部が成年向きの「平和論」であって、一番ばん、必要とされる少年少女向きのものは一冊もない。
 小、中学校の「社会科」の単元を見ると、六学年には『世界中の人々が仲良くするには、わたしたちはどうすればよいか』があり、また九学年(中学三年)には『われわれは世界の他国民との正常関係を再建し、これを維持するために、どのような努力をしたら良いか』があり、そしてそれぞれ、これに伴う学習活動の例が当局によって指示されているが、生徒たちは(いいや、ある場合には教師諸君も)どういうものを参考に読めばいいのか、きっと迷うのではないかと思う。わたしたちは、いささか学校教育に関係するものとして、この点に、想いをいたし、右の生物講和を主体とし、これに平和問題や戦争の害悪にかんするものをあわせて、一書にまとめ、愛する少年少女に贈ろうと思いついたのである。
 もしこの書物が、少年少女によってよまれ、平和日本の建設、無戦世界の実現のために、勇気と確信とをもって直進するそれらの諸君に、いくらかでも役立つことができるなら、わたしたちの望みは足るのである。
   昭和二十五年十一月
                            賀川豊彦
                            村島帰之