少年平和読本

少年平和読本(22)あとがき

戦争が放棄され、軍備が全く撤廃されて、いささか不安をだいているやに見える、日本人、特にこれから成長して、新生日本、平和日本をせおって立つ少年少女の頭に、生存競争のみが、真の生命の進化を促すものではなく、むしろ反対に、武装を放棄したものが永…

少年平和読本(21)祖国愛か人類愛か

愛国心だけでは足りない と叫んで銃殺された看護婦の話 恩讐を越えて 両軍が接近して対陣していた。月の美しい晩だった。歩哨が銃を小脇に警戒していると、ふと、目の先の敵陣地に人影の動くのが見えた。敵の歩哨だ! 幸いこっちは月の陰になっていて、敵か…

少年平和読本(20)国と国との憎しみを去れ

四方の海みなはらからと思う世に など波風のたちさわぐらん 明治天皇 臥薪嘗膽の古事 中国の春秋時代に、呉(ご)王夫差(おうふさ)は越の国をたおして、父のあだをうとうとし、復讐の心をわすれぬため、毎夜、たきぎの中に寝て、自分のからだを苦しめたという…

少年平和読本(19)世界連邦を作ろう

世界は「国家時代」から平和な 「全人類時代」に移ろうとしている 世界は狭くなった わたしは今ロンドンにいるが、去年の暮の二十二日の朝、羽田の飛行場を出発し、四日間の空の旅の後、クリスマスの夜はロンドンに着いていたのだった。昔、能因法師は『都を…

少年平和読本(18)戦争のない一つの世界へ

アリストテレス以来、世界を一つにしよう という努力はつづけられて来たが 永久平和への願い 昔から多くの学者が、頭をしぼって、どうしたら戦争をふせいで永久平和が実現できるかということを考えた。 アリストテレスという学者などは、『武力か政治力で世…

少年平和読本(17)戦争は避けられる

戦争は文明を進歩させる などという軍国学者にだまされてはならない 戦争は絶滅できるか 戦争は絶滅させることができるだろうか。ブロッホ という 学者は『科学が発達すれば、自然に戦争はできなくなる――』といった。この予言は、ある点まではあたった。原子…

少年平和読本(16)戦場に劣らぬ銃後の犠牲

戦死軍人五に対して戦没市民は一 広島では市民の三分の一が死傷した 一般市民の戦災死者 昔の戦争は軍人のみによって戦われて、一般国民は銃後にあって、そのいのちが危険にさらされるということはなかったが、近代戦争となると、航空機の使用によって戦線と…

少年平和読本(15)病気でたおれた兵隊

戦死者よりも多い戦病死者、 特に多いチブスと結核による死者 戦争による死者七十億人 ある書物によると、過去数千年の間に、戦争でうしなわれた人間の生命は七十億をこえているだろうという。地球上の人間の数は大体十八億というから、世界の人間の約四倍が…

少年平和読本(14)草むすかばね、みずく屍

二度の世界大戦で三千万人、 日本だけでも二百万人が戦死している 光栄ある人類の大宣言 「ユートピア」の作者モアは「戦争は畜類がするにふさわしい仕事だ。しかも、どんな畜類も、人間ほど戦争をするものはない」といい、そして「戦争で得らるる名誉ほど世…

少年平和読本(13)食糧不足から来る戦争

マルサスの人口論を盲信するな。 食糧資源を得る道はある 複雑となった近代の戦争 遠い昔の戦争はともかくとして、近代の戦争は、侵略者のせいだ、と一がいにはいえなくなってきている。社会の進むにともなって、戦争の原因も、しだいにふくざつとなってきた…

少年平和読本(12)剣の征服者は剣に亡ぶ

侵略者の末路を見よ。彼らを英雄と呼ぶな。 彼等は暴力団員にすぎない トルストイの童話 昔ロシアのある田舎に、一人の貧しい百姓が住んでいた。自分の所有地が少ししかないので「もっとたくさんの土地が欲しいなあ」といい暮らしていた。すると、ある大地主…

少年平和読本(11)世界歴史は戦争の歴史

有史以来三千年に、およそ三千の あさましい戦争が行われた イソップ童話 ライオンが寝ていた。すると、一匹の小さい二十日鼠が、ライオンとはしらずにその大きなからだの上へかけあがったり、かけおりたりしていた。やがてライオンは目をさますと、いきなり…

少年平和読本(10)武装を解いたタコ入道

四億年前、甲らを身につけて けんか好きのタコであったが 戦争好きの魚と平和な魚 あなたは、アジという魚を見たことがあるだろう。食べたことがあるから、アジは知っているが、アジの形は、はっきり知らないって? ところが、そのアジという魚はおそろしく…

少年平和読本(9)平和な小鳥の世界

敵が来れば飛んで逃げるだけ 愛情をもつ人には警戒をしない 幼き日のわが友 たがいにくみあい、うばいあい、殺しあいをして、道徳も愛もわすれている人間は、小鳥にその純潔と、道徳とを教えてもらわねばなるまい。 平和な小鳥の世界! 小鳥はなかま同士相親…

少年平和読本(8)戦争蟻と平和蟻

掠奪本能のポネリヤと互助愛の愛の蟻の話に 学ぶところあれ アフリカというところ みなさんは、アフリカを知っていられるだろう。しゃりこうべのような形をした大陸、そうだ、赤道直下の暑いところで、住民ははだかでくらしている。しかし暑いというだけなら…

少年平和読本(7)野獣も猫のごとし

アメリカのライオンとオートストリッチ 飼育所やヨセミテの熊の話など 預言者イザヤの空想 オオカミは小羊とともに宿り、ヒョウは小山羊とともに臥し、小羊、ライオンは肥えた家畜と一しょにいて、小さい人間のこどもにみちびかれ、めすの牛と熊とは食物をと…

少年平和読本(6)人間は猛獣よりこわい

恩義をわすれなかった大虎や狼の話 バイコフの動物飼育 「神の世界の生きものとして、あらゆる動物は、きわめてわれわれに近しいものであり、われわれの友だちである 」と、エヌ・バイコフという白系ロシア人がいった。バイコフは本年七十八才、今もハルピン…

少年平和読本(5)動物社会の相互扶助

助け合って生存競争にうちかつ小動物たち 鳥に道徳の芽生え 今から十数年前、中国山東省維県の大学へ講演に行ったとき、わたしはそこで鳥類研究家ワイルダーさんからおもしろい話を聞いた。 ある冬の朝のことだった。ワイルダーさんが食堂で朝食を食べている…

少年平和読本(4)動物社会の相互扶助

助け合って生存競争にうちかつ小動物たち 鳥に道徳の芽生え 今から十数年前、中国山東省維県の大学へ講演に行ったとき、わたしはそこで鳥類研究家ワイルダーさんからおもしろい話を聞いた。 ある冬の朝のことだった。ワイルダーさんが食堂で朝食を食べている…

少年平和読本(3)なぜ食肉動物が居るか

食肉動物にはいろいろの制限がなされている 食肉動物も必要 生物界に、なぜ食肉動物が存在するのだろう。彼らこそは生物界の平和をみだすものではないか――と、あなたはおっしゃるのか。まことにそれにちがいはない。しかし、さらによく生物界の実情を観察す…

少年平和読本(2)弱い生物は保護される

何の武器ももたないで何億年も亡びない下等動物がいる 無防備の原生動物 地球が太陽から分離して冷たくなってから、およそ二十億年を経たといわれるが、地質学では、この二十億年を時計の目もりにならって、十二に分け、一時から五時までを第一紀、六時から…

少年平和読本(1)生存競争ということ

弱いものは、みな亡ぼされてしまうものだろうか? 進化論者ダーウイン 空襲で皇居が焼けてから、天皇、皇后両陛下は御苑内の狭い御文庫におすまいになっていられるが、その御文庫の書斎には二つの青銅の像がかざられてあるという。その一つはリンカーンで、…

世界平和に向かって人々はどう努力したか(2)  賀川豊彦

近代国家の侵略戦争 近世になって、各民族はそれぞれ王を擁立して国内の統一をはかり、近代国家を作りましたが、その勢力が強大になるにつれ漸時周囲の弱小国家へ手を伸ばし、その領土を広げるようになり、そのため、世界の至るところに戦争が誘発される結果…

世界平和に向かって人々はどう努力したか(1)  賀川豊彦

平和へのあこがれ 世界の歴史は戦争の歴史だということを前に述べました。戦争は人類の歴史と共にあったのです。しかし人類は好んで戦争をしたかといえば、決してそうではありません。大昔でも、心ある者は、戦争よりも平和を欲していました。少なくとも平和…

世界の変貌−交通編 賀川豊彦

土つかずの世界旅行 背に負わるこの幼な児よ わが死後の いかなる時世に大きくなるらむ 斎藤茂吉 地球は少しのたゆみもなく回転し、世界は日進月歩の進歩発達を見せています。きのうの世界は最早、今日の世界ではないのです。うっかりしていては、時勢の進歩…

原子爆弾の話 賀川豊彦

おそろしい原爆の威力 世界連邦論者のノーマン・カズンズがいったように、1945年8月6日、原子爆弾を包んだパラシュートが、広島の上空にただよい降りた時から、人類の歴史は新しい段階にはいりました。「原子時代」とでも申すのでしょう。戦争の方法に…

「世界国家の話」(8)−人種平等の原則 賀川豊彦

白人のほか、お断り 世界憲法のシカゴ案が最も力を注いでいるのは、前回にお話しした経済的平等と、もう一つは人種平等の原則です。あらゆる人種的差別は撤廃されて、全地球上の人種は一切平等の権利義務をもつというのです。 今日では、もうそんなことはあ…

世界国家の話(7)−経済平等の原則 賀川豊彦

社会主義的だとの批判 世界憲法シカゴ案の人権宣言は、フランス革命やアメリカ独立の際のそれぞれにくらべて、はるかに具体的で、また端的、率直です。特に貧困の束縛、奴隷的搾取的な労働からの解放や、人種的、民族的征服からの個人および集団の保護を規定…

世界国家の話(6)−基本的人権について 賀川豊彦

経済、社会、文化面 今日の世界をながめて見ますと、貧富の懸隔は甚だしく、経済的搾取は公然と行われて、そのために労使間の闘争は絶えることがありません。社会的不安は、ますます募るばかりで、人種や皮膚の色による差別も、依然として激しく、また経済方…

世界国家の話(5)−軍隊はどうなるか 賀川豊彦

戦争は過去のものがたり 立法、司法、行政がすみましたから、こんどは軍隊です。 世界連邦は前にも記したように、地球全地の人民の、人間としての精神的優位と物質的福祉増進を目的として組織される法治社会で、そのために、世界平和は絶対必要条件です。 間…