黎明36 天の兵車

  天の兵車

 敵の重囲に陥ったエリシヤとその弟子は、武装もせずに立ち竦んだ。エリシヤは祈を知ってゐたが、弟子はこれを解しなかった。慌てたのは弟子であった。どうすればよいかとエリシヤに訴へた。エリシヤは祈った後静かに弟子の目を開かせた。
 見よ、天軍天馬が彼等を見えざるうちに守って、敵の重囲を無意味ならしめてゐるではないか。この超自然的な、宇宙絶対の神の奇蹟は、神に属くもののみ知り得るものである。
 祈っては戦ひ、戦っては祈り、資本主義の重圧に、奸悪なる世界の迫害に、不死身の努力の出来るのは、天の兵車が、われわれを守ってくれるからである。
 くすんだ魂よ、困難を前にして屈するな。汝の前で紅海は左右に分れ、沙漠にはマナが降る。エリコの七周に城壁は戦はずして崩れ、ベテホロンに天よりの石が降る。くすんだ魂よ、エリシヤを守った天の兵車は、今も汝を護ってゐることを記憶せよ。