2014-12-29から1日間の記事一覧

黎明34 物質を凝視する瞬間

物質を凝視する瞬間 私にとって、宗教は遠距離にあるものではない。机の隅を凝視してゐる瞬間にも、透明な硝子の表面を見つめてゐる瞬間にも、私は宗教を持つ。物質が宗教になるのではない。物質の存在そのものが私にとっては驚欺すべきものなのである。 机…

黎明33 母の力

母の力 母スザンナ 今から百五十年ほど前に、イギリスの国に、大変えらい宗教家がありました。その人の名をジョン・ウェスレーといひました。ウェスレーのお母さんは、大勢子供を生み、ウェスレーはその十五番目の子供でした。お母さんの名はスザンナ・ウェ…

黎明32 夫婦の苦闘の跡

夫婦の苦闘の跡 自分の妻に感謝したことを人の前に話すことは何だか手前味噌であまり面白く思ひませんが、感謝してゐることは嘘ではないのですから、正直にいひませう。 元来、私は肺病であったので、正式には結婚できる筈もなく、その上、無理をして貧民窟…

黎明31 黙想断片

黙想断片 この程度以上に世界を不思議に造ることは困難である。天国に行っても、この世界以上の奇蹟を見ることは不可能だ。眼を開いて見よ。真理は足下にある。 平凡が私には奇蹟だ。一つの林檎、一つの雑草、それが私には不思議だ。法則に縛られてゐるもの…

黎明30 徳富蘆花氏の思ひ出

徳富蘆花氏の思ひ出 一 私は粕谷の櫟林が好きであった。上高井戸の停留場から、村の広い道を行くとさうも感じないが、松沢村から八幡山を通り抜けて粕谷の鎮守に差しかかると、武蔵野でなければ感ぜられない美しい印象を受けるのが常であった。セピア色の肌…

黎明29 魂の芸術

魂の芸術 国家の存亡と国民精神 一八七一年、独逸がフランスと戦争して勝った時、独逸は奢って国全体に贅沢な気風が漲ったことがあった。その時、ワンダーフォーゲルといふ、渡鳥とでも読すべき、質実剛健なる風を尊び、自然に帰ることを主張した青年男女の…

黎明28 英文『日本宗教史』を読む

英文『日本宗教史』を読む 書かれなくてはならないもので、書かれなかったのは、日本人みづからの書いた日本宗教史であった。こんど姉崎正治博士がロンドンで出版せられた『英文日本宗教史』は、今まで西洋人が書いたものに比べて、更に意味深いものであると…

黎明27 西大阪は歎く

西大阪は歎く 東半球の氷河中間時代 災厄が始まるとそれが続くものである。米国カリフォルニアにあるヨセミテ国立公園の博物館で、年輪の週期律的研究を見た時、私は冷気が三十年くらゐ続いて、またその後で三十年くらゐのよき天候の季節のあることを教へて…

黎明36 天の兵車

天の兵車 敵の重囲に陥ったエリシヤとその弟子は、武装もせずに立ち竦んだ。エリシヤは祈を知ってゐたが、弟子はこれを解しなかった。慌てたのは弟子であった。どうすればよいかとエリシヤに訴へた。エリシヤは祈った後静かに弟子の目を開かせた。 見よ、天…

黎明35 眼と精神美

眼と精神美 心理作用と眼 眼は人間叡智の源泉である。それで心理的努力を払はなければ、眼が死んでしまふ。 眼には六つの筋肉がある。よく書物を読んだ人の眼の筋肉は非常に発達して、たとへ細眼である人でも不思議に大きく開くことが出来る。それのみならず…