2015-02-17から1日間の記事一覧

海豹の30 寒流と暖流の合するところ

寒流と暖流の合するところ 翌朝早く、でっぷり肥えた紀州勝浦港の網元、伊賀兵太郎が銚子にやってきた。そして流網は、釧路に着いてからのことにして、まづ北の方の開拓をしてもよい。といふことにきまった。そして、鈴木伝次郎を兵太郎が連れて帰り、そのあ…

海豹の29 海洋の破戒者

海洋の破戒者 勇が、郵便局から出て来たのは、もう夜の明け放れた五時過ぎであったが、浜に下りる社の角で、松原と、鈴木と、古屋の三人が、いゝ気になって、昨夜遊んだ話をしながら約十四、五間前方に歩いて行くのを見付けた。勇は暫くの間、彼等のあとをつ…

海豹の28 港の魅力

港の魅力 勇が、靴を脱いで、玄関に上ると。そこに出て来たのは、年頃十五六の舞妓であった。ふっくりとした苦労を知らない、赤ん坊のやうな柔かい頬ぺたをして、一重瞼ではあるがぱっちり開いた眼に、長い睫毛をつけて、振袖を左右になびかせ乍ら表へ出て来…

海豹の27 犬吠岬の燈台

犬吠岬の燈台 第三紀層の砂岩の上につっ建った、まっしろの犬吠岬の燈台が見え出した。岸辺を洗ふ大きな濤が、額縁のやうに海に輪廓をつけて、暴風雨の後の風景を愛らしいものに見せた。 表で、広瀬と卯之助が、大吠岬の燈台を見ながら銚子の噂をしてゐる所…