賀川豊彦『一粒の麦』が再版


 賀川豊彦『一粒の麦』が、イエスの友会三河支部やみかわ市民生活協同組合の関係者らによって再版された。1983年に社会思想社が発行した文庫本を最後に絶版となっていた。

 「一粒の麦」は、賀川が明治40年から療養のため過ごした豊橋蒲郡、旧津具村での体験を雑誌に連載。昭和31年に単行本として出版された。農村振興や友愛の精神をうたい、220版を重ねるベストセラーに。1932年には無声映画としても公開された。

 賀川豊彦は、100年前、肺病を病みながらも残された短い人生を貧民窟の人々のために尽くそうと考えた。彼らとの生活の中から、社会改革の必要を痛切に感じ、神戸の三菱、川崎造船所で日本初のストライキを指導。その後、消費組合、農業組合などを次々と立ち上げ、社会運動家として一躍、時代の寵児となった。

 特に『一粒の麦』の主題となっている農村問題では、果樹や畜産、軽工業などの適地適作をしたり、遊休地などの有効利用で食糧の確保を図る「立体農業」の理念を広めたりした。

 1920年に発売された自伝小説『死線を越えて』は3部作で400万部もの売り上げを記録、爆発的人気を博した。巨額の印税を私的生活には使わず、労働運動など賀川の活動資金として費やされた。

[http:ww4.big.or.jp/~jelc-w/hitotubunomugi-sinbun.htm:le=11月30日中日新聞三河版の記事]

 豊橋蒲郡、旧津具村(現設楽町)など東三河を舞台にした賀川豊彦(一八八八-一九六〇年)の小説「一粒の麦」を、同じキリスト教の信者らが二十四年ぶりに再版した。「郷土の文学に触れ、みんなで生きるということを見直してもらいたい」と願っている。
 「一粒の麦」は一九三一(昭和六)年に発行されてベストセラーになり、無声映画にもなった。八三年に社会思想社が出した文庫版を最後に、絶版になっていた。賀川が豊橋に来て百周年にあたる今年の再版を目指し、賀川が創立したイエスの友会三河支部やみかわ市民生協を中心に「再版する会」をつくり、遺族の許可を得て準備を進めてきた。
 小説は、津具の貧しい家に生まれた主人公嘉吉がキリスト教に出合って人生観を変え、他の青年とともに山村の生活向上に取り組むというストーリー。猿回しと旅行したり、以前の勤め先でごまかした金を返したりしながら嘉吉が精神的に成長していく様子を、清明な文章でつづる。
 本はB6 判、三百十四ページ。一冊九百円で、三千部刷った。口筆の詩画家星野富弘さんが表紙絵を描き、聖路加国際病院日野原重明理事長が推薦文を書いた。日野原さんは賀川の主治医だった。再版する会の長谷川勝義事務局長(六五)は「本を手に取り、協働や隣人愛の精神を思い出してもらえたら」と話している。
 十二月八日午後一時半から、豊橋市公会堂で再版記念会を開く。賀川豊彦研究者の鈴木武仁さんが講演し、アニメ映画で生涯を振り返る。本代を含めた入場料干円。問い合わせは再版する会事務局の鈴木貞男さん 電0532-52-8757へ。(日下部弘太)
 かがわ・とよひこ 神戸市生まれ。19歳のとき、キリスト教伝道のため訪れた豊橋で肺結核が悪化。一時危篤に陥ったが奇跡的に回復し、蒲郡や津具に移って療養した。著名な文学者であり、協同組合運動など多くの社会運動にも尽力。ノーベル平和賞の候補になった。

 [http:w.kobe-np.co.jp/news/shakai/0000862065.shtml:e=賀川豊彦の小説を再販 「一粒の麦」24年ぶり【2008年3月5日付神戸新聞】]

 大正、昭和の社会運動家として知られる賀川豊彦(一八八八-一九六〇年)のベストセラー小説「一粒の麦」が二十四年ぶりに再販された。賀川が二十歳前後だった約百年前、愛知県豊橋市蒲郡市など、三河地方にキリスト教の伝道や病気療養のため滞在していた時の経験が著作の基になっている。関係者は「隣人愛の精神を思い出してもらえればうれしい」と話している。(河尻 悟)

 神戸や東京などで救済運動に取り組み、労働組合や消費組合、健康保険などの組織を作ったことで知られる賀川。恐慌や凶作などで疲弊した農村を立て直すため奔走。果樹や畜産、軽工業などの適地適作をしたり、遊休地などの有効利用で食糧の確保を図る「立体農業」の理念を広めたりした。一九三一年二月、雑誌の連載をまとめ、単行本「一粒の麦」として出版した。

 ベストセラーになり、三二年には無声映画として公開。版を重ねたが、八三年に社会思想社が発行した文庫本を最後に絶版になっていた。

 賀川は〇七-〇九年、三河地方で伝道中に倒れて静養し、一度神戸に戻った後、再び病気療養を目的に滞在した。一粒の麦には、当時の情景をしのばせる描写が数多くある。賀川が「一番感化を受けた」という牧師の長尾巻ら、交流していた人々がモデルとして登場しているという。

 今回、再販に向けて取り組んだのは、イエスの友会三河支部やみかわ市民生活協同組合の関係者ら。豊橋市の長谷川勝義さん(66)もその一人で「賀川が三河地方で活動を始めて百年になるのを機に、再販しようと思った」と話す。

 仮名遣いや表現を現代風に改め、漢字を新字体に直すなど、読みやすくなるよう心がけた。孫の督明さん(54)は「賀川の総合的な取り組みを知ってもらう良い機会」と話している。

 九百円(送料二百九十円)。賀川豊彦「一粒の麦」を再販する会TEL0532・52・8757(鈴木さん)