2015-02-19から1日間の記事一覧

海豹の42 海の精の最期

海の精の最期 勇は幸ひ、背中の傷が比較的浅いので、出血は止まらなかったけれども、卯之助の運命が気づかはれたので、彼を探すために艫に廻った。然し、卯之助はそこに居なかった。勇は、白洋丸を一巡して卯之助を探した。然し、何処にも卯之助の姿は見えな…

海豹の41 無風帯

無風帯 高雄に入ったのは、それから二日目の昼頃であった。港に入ったすぐ左手に、漁船のために造られた立派な波止場があった。そこは港でも最も繁華な哨船町と港町の間に挾まれてゐて、海に疲れた人を慰めるには、もってこいの処であった。その日彼は。鮪の…

海豹の40 足摺崎の秋の夜

足摺崎の秋の夜 勇は、それから、猪之助に、高知県の網のこと、遠洋漁業のことなども教へてもらった。すると。猪之助は、それに関連して面白いことをいうた。 『網は、神奈川県や富山県に比べてあまり発達してゐないやうですが、遠洋漁業の精神は盛んなやう…

海豹の39 海を忘れた文明

海を忘れた文明 大阪に着いた勇は、すぐ難波駅から、天王寺の市立病院までタクシーを飛ばした。それは。夜の九時頃であった。病室はみな寝静まってゐた。然し、かめ子は、万龍の傍に茣蓙を布いて坐った儘、雑誌のやうなものを読んでゐた。あまりに勇の帰って…

海豹の38 那智と新しい行者

那智と新しい行者 秋の空は晴れて、那智の滝は白く勝浦の港の入口から見えてゐた。その滝を見ようと楽しみに出てきた万龍が、滝を見ないで、永遠に失明したと思ふと、走馬燈のやうな因果に、人生を寂しい処だと思はざるを得なかった。 然し、船主の伊賀兵太…

海豹の37 闇に輝く光明

闇に輝く光明 一日の中に両眼が潰れてしまった美しい万龍は、診察室から出て来るなり、ベンチの上に泣倒れて、暫くの間身動きもしなかった。 然し、こんな処で泣倒れてゐても仕方がないので。何処か、無料の病院にでも頼んで、眼の治るまで治療さして貰ふこ…