2015-02-22から1日間の記事一覧
海上の奴隷 案内してくれたマリ子の父の家といふのは、頗る堂々たる別荘風の邸宅だった。海岸から少し離れてゐるのが難点ではあったが、庭の植込みは、冬でも家が見えないほど立籠り、文化風に建てられた洋館は、狭くはあったが手をこめて造られてあった。マ…
雀のお宿 それからマリ子は一たん天幕にもどったが、町ヘレター・ペーパーを買ひに行くといひ残して天幕を出ようとした。それで村上勇も彼女と一緒に散歩しようと彼女の出たあとを追っかけて外に出た。街路の上に彼女の影を見つけた勇は、あとから飛んで行っ…
海にあこがるゝ娘「おや、おや……こんな所に置いてくれると出入するのに困るのねえ』 天幕の戸口に立った西田の助手が呟く。それを聞いた勇が、それを傍に寄せる。マリ子は感謝して、二、三遍お辞儀をした。そして天幕の中からナイフを取出して来て、古着を包…
海の失業者 きたないバラックまがひの貧民長屋が並ぶ。狭い路次に、おしめが干してある。鼻垂れ小僧が、竹や木片を持って、泥棒ごっこをして遊んでゐる。飴屋が通る。チンドン屋が行く。紙芝居の前に悪太郎が群がる。よくもこれだけ人間の屑が寄ったものだと…
男に飽いた女『若、お父さんが、あんな最期を遂げましたので、せめて私でも、あなたのお側に置いて頂いて、何かの御用に使って頂くといゝんですかね。何か、あなたの脇に私のする用事はありませんか? 飯炊きでも。お女中さんの代りでも何でもいゝんです』 …