2014-12-24から1日間の記事一覧

黎明12 英雄と唯物史観

英雄と唯物史観 伝記学の出発 米のプラグマチズム哲学の創始者、ウイリアム・ジェームスは、彼の名著『宗教経験の諸相』の中で、性格心理学の基本として、伝記学といふものを主張してゐる。 この見方は、すぐれた卓見であって、人間個性を研究する場合、伝記…

黎明11 深夜の祈祷

深夜の祈祷 深夜、床を抜け出て神に祈る。周囲は暗く、伺ひ知りたまふものは、神のみである。万物は眠ってゐる。鼠さへ物音を立てない。鶏はまだ目醒めず、梟さへ声を立てることを遠慮してゐる。私はわざと灯火をつけないで、真暗闇に跪く。 そこは、天地創…

黎明10 北氷洋の聖雄グレンフェル

北氷洋の聖雄グレンフェル 北海の冒険者 たしか今より四十三年前のことであった。大西洋を小舟で横断しようと準備してゐる年若い一人の医者があった。しかし、大きな汽船で横断するならいざ知らず、二十噸にも足らぬやうな小さい船で、冒険的航海をしようと…

黎明9 村から蒸発する女

村から蒸発する女 徳島県辻町に三好高等女学校といふのがあるが、この女学校の教育の仕方にすっかり感心させられた。この学校の校舎は、前は農学校だったのだが、それをそのまま使用してゐる。生徒は全部寄宿させることにし、附属の学校園で毎日二時間の労働…

黎明8 田園文学に就いて

田園文学に就いて 十八世紀の末、都会の煙突が建ち始めてから都市文学と田園文学の差が著しくなった。特に英国では機械文明に反抗する詩人の一派が現れて、文芸のあらゆる方面に自然派なる一派が出現するに至ったが、この一派は十九世紀後半の自然主義とは違…

黎明7 擂鉢と遊ぶ

摺鉢と遊ぶ 私は四則阿波の田舎で育ちました。昔は庄屋をしたこともある大きな屋敷に幼時を過しました。家業は藍を製造してゐたので、沢山の人がゐて、常に百人分くらいの炊事をしなければなりませんでした。だから摺鉢なども、とても大きなものを使ってゐま…

黎明6 最近の愛読書

最近の愛読書 一 一生はあまり短いので私は詰らない書物を読まないやうにしてゐます。専門の科学に関する外は、有名な書物だけしか読みません。愛読の書物は、宗教的のもの、自然に関するもの、哲学に関するもの、芸術に関するものなどが最も多いのですが、…